ID 96863
Author
Ichimori, Hayato Anan College of Technology
Content Type
Thesis or Dissertation
Description
リン脂質二分子膜は細胞モデルとして幅広く研究されてきた。しかし圧力効果の研究は炭素
数16および14の飽和アシル鎖を有するリン脂質DPPC、DMPCに集中しており、アシル鎖の
鎖長依存や不飽和アシル鎖を有するリン脂質二分子膜の高圧力下における研究は極めて少な
い。生物の高圧力環境適応や微生物の高圧力殺菌を理解するうえで、高圧力下における二分子
膜の相挙動に対してアシル鎖がどのような効果をもつのか十分に理解されていない。本研究で
は、まず飽和アシル鎖をもつリン脂質二分子膜(炭素数12-18) のゲル―液晶相転移(主転移)
を観測し、高圧力下における相挙動を明らかにした。鎖長の増加に伴い、主転移温度は上昇し
た。相転移温度の圧力依存性dT/dPは0.200-0.230K MPa-1で鎖長の増加に伴い僅かに大きくな
った。相転移熱量、体積変化は鎖長の増加に伴い大きくなったが、鎖長の奇数、偶数による差
は見られなかった。次に、飽和アシル鎖を有するリン脂質のゲル相間の転移について明らかに
した。ラメラゲル相からリップルゲル相への転移(前転移)は鎖長13以上のリン脂質で観測さ
れた。主転移と同様に鎖長の増加に伴い、前転移温度は上昇したが、dT/dPは0.12-0.14
K MPa-1で鎖長の影響はみられなかった。高圧力下でのみ観測される圧力誘起のInterdigitated ゲ
ル相はアシル鎖長14のDMPC二分子膜では300MPa以上で観測された。アシル鎖長が長くな
るとInterdigitationを起こす圧力は低下した。
生体膜を構成するリン脂質は、ほとんどの生物で、不飽和脂肪酸を高いパーセンテージで含
有している。不飽和脂肪酸の融点は飽和脂肪酸に比べてはるかに低温であることから、不飽和
脂肪酸から成るリン脂質膜のゲル-液晶相転移温度は低く、このことが生物において重要な機能
をはたしていると考えられる。不飽和結合を持つリン脂質としてオレイン酸をアシル鎖に持つ
DOPCの温度-圧力相図を決定した。従来常圧下で-12℃に主転移があるとされたが、さらに
低温側の-40℃に新しい相転移を発見した。検討した結果、-12℃の相転移はラメラ結晶相か
ら液晶相への転移であり、-40℃にゲル―液晶の主転移があることを明らかにした。ステアリ
ン酸(sn-1)とオレイン酸(sn-2)をアシル鎖に持つSOPC二分子膜の相図から、1個のシス2重結合を
導入すると主転移温度を48℃下げることが明らかになった。ステアリン酸(sn-2)とオレイン酸
(sn-1)が入れ替わったOSPCやトランス型二重結合のエライジン酸を持つDEPCの主転移および結
晶相から液晶相への転移の圧力効果を検討した。SOPC、OSPC、DEPCは、2つの転移ともほぼ
同じ転移温度、圧力依存性を示した。このことからシス型二重結合1個はトランス型二重結合
2個と同じ効果を持つことが明らかになった。また1位にステアリン酸、2位に不飽和アシル鎖
を持つリン脂質、SOPC(オレイン酸18:1) 、SAPC (アラキドン酸20:4) 、SDPC (ドコサヘキ
サエン酸22:6) の常圧における主転移温度は、6.7℃、-13℃、-7.2℃であり、不飽和度の増加
にともない、一様に下がることはない。また圧力依存性dT/dPは、DSPC 0.230、SOPC 0.181、
SAPC 0.134、SDPC 0.165 K MPa-1であり、不飽和度の増加により一様に小さくなるわけではな
い。この現象は脂質分子の頭部(ホスファチジルコリン)がかさ高いため、ドコサヘキサエン酸
が二分子膜中でラセン状になりパッキングを密にしていることが原因と考えられる。不飽和リ
ン脂質二分子膜でのゲル―液晶相転移はこれまでほとんど調べられていないが、相転移の熱力
学量(△H、△S、△V、dT/dP) から秩序性の低いゲル相を形成することが明らかになった。
Published Date
1999-11
Remark
画像データは国立国会図書館から提供(2011/9/26。JPEG2000形式を本学でpdfに変換して公開)
FullText File
language
eng
MEXT report number
乙第1710号
Diploma Number
乙工第55号
Granted Date
1999-11-12
Degree Name
Doctor of Engineering