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Title Transcription
ミトコンドリア ADP/ATP トウカ タンタイ ニオケル シンスイセイ ループ コウゾウ ト キノウテキ ヤクワリ
Author
Hashimoto, Mitsuru
Content Type
Thesis or Dissertation
Description
ミトコンドリア内膜に存在するADP/ATP透過担体(AAC)は、酸化的リン酸化の基質である
ADPとその産物であるATPの交換輸送を行う酸化的リン酸化反応に必須の膜タンパク質である。
AACは種間を通じて約300のアミノ酸残基からなり、類似性の高い約100アミノ酸残基単位が3
回繰り返した配列をしている。各繰り返し配列は、2カ所の疎水性領域とそれを連結する約40残基
程度の長い親水性領域からなる。この親水性領域はミトコンドリア内腔(マトリックス)側に存在
するループを形成している。AACのトポロジーは、N,C両末端が細胞質側に突出した6回膜貫通
構造であることが明らかとなっている。またAACは、基質結合部位を細胞質側に向けたc-stateと
マトリックス側に向けたm-stateの2種類の立体構造をとり、これらの立体構造間の転移によって
透過機能が発現すると考えられている。ウシ心筋AAC(bhAAC)の3つマトリックス側の親水性ル
ープ(M1,M2,M3)にそれぞれ存在するシステイン残基(Cys56,cys,159,Cys256)のSH試薬に対する
反応性の違いから、各ループの立体配置がそれぞれ異なっていること、及びAACの機能発現に伴
った構造転移に際してこれらループは立体配置を変化させることが見いだされている。しかし、こ
れら親水性ループと基質輸送との関連はいまだ不明である。そこで、本研究ではAACの基質透過
機構の解明を目的として、特に親水性ループの構造と機能的役割について検討した。
1.化学架橋試薬を用いたADP/ATP透過担体のループの空間的配置の解析
SS架橋試薬銅オルトフェナンスロリン(Cu(OP)₂)をウシ心筋ミトコンドリアの反転膜小胞
(SMP)に作用させSDS-PAGEに供したところ、30kDaのAACバンドの減少に伴って、約60kDa
のバンドの出現し、このバンド強度はCu(OP)₂作用濃度に依存して増大した。アミノ酸配列分析の
結果、この60kDaのタンパク質はループM1中のCys56同士の分子間架橋により生じたbhAACの2
量体であることが明らかとなった。従ってAACは、膜中で2つのAAC分子が対称に対向した12
回膜貫通型の2量体として機能することが明らかとなった。次に、架橋距離が7.7~16.8Åと異な
る架橋試薬である6種のジマレイミド誘導体をSMPに作用させたところ、全ての架橋試薬が
Cu(OP)₂同様にCys56同士の分子間架橋を特異的に形成した.この結果から、Cys56を含むループM1
のみがマトリックス側に露出し、他のループは膜内に貫入していることが明らかとなった。更に、
この架橋反応を解析した結果、架橋距離が12Åのジマレイミドが最もCys56間の架橋を形成し易い
ことを見いだした。また、全ての架橋試薬によるCys56間の架橋は、m-stateの状態で形成されたの
に対し、c-stateの状態では全く形成されなかった。以上の結果から、ループM1はAACがm-state
ではマトリックス側に露出し、Cys56間の距離が12Åの状態を中心とする広範囲な距離で揺動して
いるのに対し、c-stateでは一転して膜中に貫入していると解釈することができる。即ち、基質輸送
に伴ってAACのループは立体配置を大幅に変化させることになる。また、架橋形成に伴いAACの
透過活性が阻害されたことから、ループM1の立体配置変化がAACの透過機能に必須であると考
えられ、ループM1は構造転移に伴ったこの‘開閉'的な立体配置変化により、基質輸送に際し、
マトリックス側のゲートとしての役目を果たしていることが示唆された。
2. bhAACの酵母細胞における機能的発現系の構築
bhAACは、現在までのAAC研究のほとんどで標品とされてきた。そのbhAACを遺伝子工学的
手法により機能解析するための実験系を確立することを目的として、固有のAAC遺伝子(yAAC1,
yAAC2)が破壊された酵母細胞WB-12を宿主として、bhAACの機能的発現系の構築を試みた。し
かし、bhAACは酵母細胞のミトコンドリアにほとんど発現しなかった.そこで、bhAAC と酵母
AACのアミノ酸配列の比較を行い、推定2次構造上で細胞側に突出しているN末端領域のアミノ
酸残基数及び配列が、bhAACと酵母AACで全く異なることに着目し、bhAACのN末端領域11残
基をyAAC2(26残基)またはyAAC1(16残基)の相当領域と置換したキメラbhAACのWB-12細胞
での発現を試みた。その結果、キメラbhAAC は顕著にミトコンドリアに発現した。更に、これら
キメラbhAACがnativeなbhAACと同等の透過機能を有していた。以上の結果から、bhAACを機
能を保持したキメラ体として酵母細胞にて機能的に発現させることに成功した。
3.Cys56の機能的役割とループM1の立体配置変化に関与するアミノ酸残基の同定
膜透過性のSH試薬であるN-エチルマレイミド(NEM)が、Cys56を標識することでbhAACの透
過活性が阻害されることが知られている。そこで、Cys56の機能的役割を検討する目的でNEMの
AACの透過機能への影響を検討した。その結果、NEMはCys56を修飾することで、マトリックス
側からの基質結合を阻害することなく、m-stateからc-stateへの構造転移を阻害した。従って、基質
結合後の構造転移に際したループM1の立体配置変化が、AACの透過機能に必須であることが明ら
かとなった。更に、キメラbhAAC及びyAAC2のCys56に相当するシステイン残基を部位特異的
変異解析した結果、置換したアミノ酸残基の側鎖体積の増大に依存して、変異AACの基質透
過活性は低下した。従って、Cys56はAACの透過機能に必須のアミノ酸残基ではなく、NEMに
よる活性阻害は、AACの構造転移の際Cys56周辺で生じる何らかの残基間相互作用に対して、立
体障害となっていると考えられた。そこで、Cys56のN末端側に隣接するアスパラギン酸残基が、
種間で保存されていることに着目し、この残基の部位特異的変異体を調製し、その基質透過活性を
検討したところ、アスパラギンやアラニンに置換することで、透過活性は完全に消失した。この結
果から、アスパラギン酸残基のカルポキシル基がAACの構造転移の際に他のアミノ酸残基と塩橋
を形成するなどの相互作用を行っていると思われる。
4. ループM2における基質認識機構の解明
過去の報告から、bhAACにおいて基質結合部位であることが示唆されているループM2領域の3
次元構造とATPとの相互作用の様式を分子力学計算及び分子動力学計算を用いたCGシュミレーシ
ョンにより解析したところ、Arg151とAsp167が塩橋を形成し、これがATPのポリリン酸エステルを
静電的に吸引することと、この塩橋により形成されるループ内ループ中の疎水性残基のクラスター
(Phe153,Ile160,Ile163,Phe164)に結合後のアデニン環が疎水的相互作用により侵入することが見いださ
されている。そこでこのシュミレーションをもとに上記残基の部位特異的変異解析を行ったところ、
Phe164を除く上記の残基が透過機能に必須であることが明らかとなった。以上の結果は、このルー
プM2内ループ(Arg151~Asp167)領域がbhAACの主たる基質結合部位であることを強く示唆した。
以上の研究成果より、AACの基質輸送には、マトリックス側の巨大な親水性ループが深く関与
していることが明らかとなった。また、これらはそれぞれが異なる構造と機能的役割を有しており、
これらループの協調的な構造転移がAACの基質輸送の本体であることが強く示唆された。このこ
とは、一般的な輸送担体による物質輸送にも応用できると考えられる。
Published Date
1999
Remark
画像データは国立国会図書館から提供(2012/3。JPEG2000形式を本学でpdfに変換して公開)
FullText File
language
jpn
MEXT report number
甲第1039号
Diploma Number
甲薬第50号
Granted Date
1999-03-26
Degree Name
Doctor of Clinical Pharmaceutical Science