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ID 96865
タイトルヨミ
ホニュウ ドウブツ ミトコンドリア ノ バイオ ジェネシス ニ カンスル キソ ケンキュウ
著者
姫田, 敏樹
資料タイプ
学位論文
抄録
ミトコンドリアは,これまでラグビーボールあるいは葉巻状の形をしたも
ので,外膜とマトリックス内に入りくんだ内膜からなり,また,ある程度大き
くなるとその中程に内膜の隔壁を形成して2分裂する方式でミトコンドリア数
を増生させると考えられてきた.しかし最近,全てのミトコンドリアが融合し
た網状体が観察されたり,クリステは内膜が単純に入り込んだものでないこと
が明らかにされてきたことから,長く保持されていたこれまでの絵図や説明が
間違っていることが明かとなってきた.つまり,ミトコンドリアの研究は,そ
の概念を改めて考察すべき時期を迎えたといえる.
そこで本研究では,ミトコンドリアの中でも中心的な働きを担っている
ATP合成酵素と,心筋細胞においてミトコンドリアの異常な増殖が確認される
JVSマウス(Juvenile Visceral Steatosis mouse)に着目し,ミトコンドリアのバイ
オジェネシスの解明を目的として,以下の2つのテーマから解析を行った.
1. ATP合成酵素の分子構築における分子シンク口ナイゼイション現象の発見
哺乳動物のミトコンドリアのATP合成酵素は16種のサブユニットが一定
の化学量論比で構築された世界最小の分子モーターで, ATP合成反応を触媒す
るF₁と,エネルギー変換反応に携わるF₀,そしてこの2つのセグメントをつ
なぐstalkで構築されているが,これらを構成するサブユニットの発現制御機
構は,いまだ明らかにされていない.そこで本研究では, ATP合成酵素の核遺
伝子にコードされたサブユニットの転写レベルにおける制御システムを明らか
にすることを目的とし, F₀' stalkに属するサブユニット7種とF₁のβsubunit,
そして活性制御因子であるIF1(ATPase inhibitor protein)の全9種について転写
物量の解析を行った.その結果,これら9種のサブユニットのmRNAは大部
分心臓において最も多く発現しているが,これらmRNAの分子モル比は,脳・
肝臓・心臓・腎臓の4種の臓器において,全く同一の割合で発現されているこ
とが初めて明かとなった.この発現パターンは,2~90週齢ラットにおいても
一定に保持されていることが明らかとなった.これは,ATP合成酵素サブユ
ニットを一定の割合で発現するための,転写レベルでの分子シンクロナイゼイ
ションシステム“ジーンシンクロナイザー"の存在を強く示唆している.
2.ミトコンドリアの分裂・融合・分配に関わる新規因子の探索
全身性カルニチン欠乏マウスであるJVSマウスの心筋細胞では,ミトコン
ドリア数が細胞質の大部分を占めるほど劇的に増加していることが知られてい
る.この事実は,JVSマウスの心筋細胞では,ミトコンドリア数の増加を引き
起こす制御因子が正常マウスのそれに比し極端に多く発現していることを示し
ている.また,ATP合成酵素サブユニットの転写量および組織特異的発現パタ
ーンを調べたところ,JVSマウスと正常マウスとの間に違いは認められなかっ
た.このことはミトコンドリアの増加にその構成成分の増減は伴っていない
ことを示しておりミトコンドリアの増殖にはその構成成分の発現とは独立し
た増殖制御機構が存在することが示唆されてきた.
そこで,ミトコンドリア数の増加を引き起こす制御因子を明らかとするた
め,蛍光Differential Display法を用いてJVSマウスと正常マウスで発現してい
るmRNAの差を解析した.その結果,現段階でミトコンドリアの増殖に関与す
る可能性のある新規遺伝子を6種得ることに成功した.これらの因子の完全長
cDNAクローニングを行なうとともに,これらの因子がミトコンドリアにどの
ような影響を及ぼすかを調べるために,ミトコンドリア輸送ペプチドを融合さ
せた蛍光タンパク発現ベクターと共にこれらのDNA断片を培養細胞中にトラ
ンスフェクトして,生細胞中におけるミトコンドリアの動態変化をタイムラプ
スデコンボリューションCCD蛍光顕微鏡下で直接観察することを考え,その
実験系を確立させた.
今後,哺乳動物のミトコンドリアの分裂・融合と娘細胞への分配の分子メ
カニズムが解明されることが期待される.
発行日
2001
備考
画像データは国立国会図書館から提供(2011/9/26。JPEG2000形式を本学でpdfに変換して公開)
フルテキストファイル
言語
jpn
文科省報告番号
甲第1163号
学位記番号
甲薬第63号
学位授与年月日
2001-03-26
学位名
博士(薬学)