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タイトルヨミ
リポソーム ト ホタイケイ ノ ソウゴ サヨウ ニ カンスル ケンキュウ
著者
資料タイプ
学位論文
抄録
生体内投与後のリポソームの排除機構として,血中での不安定化と単
核食細胞系(MPS)による取り込みという二つの機構が想定されている.
両機構において重要な役割を果たすと考えられているのが,補体系であ
る.補体系は20種類以上の血液成分から構成される体液性初期生体防御
機構の一つであり,補体系によるリポソームの認識は, MPS上の補体レ
セプターのリガンドであるC3フラグメントの結合と,内封物質の漏出を
促す小孔(MAC)の形成を促進させるため,リポソームの体内動態に大き
な影響をおよぼすと考えられる. したがって,補体系がリポソームをどの
ように異物として認識するか,そしてその相互作用がどのような要因によって
支配されているかを明らかにすることは,有用なリポソーム製剤を開発する上
で非常に有用な情報を提供すると考えられる.
そこで,補体系とリポソームとの相互作用に関して詳細な検討を行った.
I 補体系のリポソームの体内動態への寄与の検討 
上述のとおり,補体系によるオプソニン化(C3フラグメント結合)および膜
破壊(MAC形成)がリポソームの動態と密接な関係にあると考えられる.そ
こで,リポソーム表面に結合したC3フラグメント量と,血清中でのリポソーム
の崩壊度を測定し, リポソームの体内動態とどのような関係にあるか検討した.
その結果, C3フラグメント結合量は,リポソームの肝移行性の指標である肝ク
リアランスと良好な相関関係にあることが明らかとなった.このことは,肝臓
によるリポソームの取り込みが, C3フラグメント結合量,すなわち補体系との
相互作用によって支配されていることを示すものである.一方,飽和リン脂質
を基剤としたリポソームの血清中での不安定化は補体依存的であったのに対し
て,不飽和リン脂質からなるリポソームの不安定化は補体系以外,例えばHDL
などのリポタンパクとの相互作用によることが示された. しかし血清中での
補体依存的な崩壊の程度と, in vivoでの不安定化の指標である腎クリアランス
との間には一定の相関関係があることが示された.このことから,in vitroで補
体依存的な崩壊を示すリポソームにあっては,in vivoにおいてもその安定性が
補体系に支配されることが明らかとなった. 以上の結果から,補体系との相互
作用,特にC3フラグメントの結合およびMAC形成がリポソームの動態と密接
な関係にあることが明らかとなった. 
E 補体系によるリポソーム認識機構の検討
補体系の活性化経路には古典経路と第二経路の二つの経路があることが知ら
れている. 検討の結果, 22%, 33%コレステロール含有リポソームは古典経路
を, 44%コレステロール含有リポソームは第二経路を活性化することが示され,
リポソーム組成中のコレステロール含量(ホスファチジルコリン含量)の違い
により活性化される経路が異なることが明らかとなった.これまでに,コレス
テロール(あるいはホスファチジルコリン)含量の違いがリポソームによる補
体活性化経路を変化させるという報告はなく,本報告が初めてである.そこで,
この原因について検討した.その結果,低温下(0℃でリポソーム表面に吸着
する血清因子の寄与により起動されることが明らかとなった.また,興味深い
ことに,古典経路に寄与する因子と第二経路に寄与する因子とは別個のもので
あり,特に第二経路に寄与する因子はコレステロールに親和性を有する可能性
が示唆された
また,このような活性化経路の違いがおよぼす補体系によるオプソニン化お
よび膜破壊への影響について検討した. 古典経路を介したオプソニン化は非常
に速やかであり,第二経路を介したオプソニン化は僅かなlag timeの後緩やかに
上昇することが明らかとなった.また古典経路を介した膜破壊は非常に速や
かであったのに対して,第二経路を介した場合lag timeの後上昇することが明ら
かとなった. したがって,補体活性化の経路の違いは,リポソームと補体系と
の相互作用の速度を変化させることが明らかとなった. 
Ⅲ ヒト補体系との相互作用に関する検討
本来,リポソームはヒトへの適応が志向されており, ヒト補体系との相互作
用について検討することは, ヒトにおけるリポソームの動態を推察する上で有
用な情報を与えると考えられる.そこで,糖修飾リポソーム(Man-Lip)をモ
デルリポソームとしてヒト補体系によるリポソームの認識機構について
検討した.その結果, Man-Lipによるヒト補体系の活性化は古典経路を
介したものであり,この活性化には自然抗体由来IgMのMan-Lip表面への
吸着が必須であることが明らかとなった. IgMは,分子量約900KDaの巨
大血液蛋白であり,ヒト補体系による粒子径依存的なMan-Lipの認識に
おいて重要な役割を果たす可能性が示唆された.
以上の検討から,生体内投与後のリポソームの動態は,それらを異物として
認識する生体防御機構と密接に関連しており,その中でも特に自然抗体などの
補体活性化因子のリポソームへの結合,そしてその結合に連動した補体系の活
性化としづ基本的な体液性生体防御機構の寄与が大きいことが明らかとなった.
このことは, リポソームを用いた薬物送達システムの開発が,単にリポソーム
化による薬物の薬効発現あるいは副作用の軽減を目指すだけでなく,生体防御
機構との相互作用を十分に考慮し,基本的な生体反応に立脚して行われるべき
であることを示唆していると思われる.また, リポソームの脂質組成(コレス
テロール含量)の変化により補体活性化経路が変化するという新たな知見は,
未だ明らかでない古典経路と第二経路の関係を解明する上で,有用な情報を与
えると考えられる.
発行日
1998
備考
画像データは国立国会図書館から提供(2011/9/26。JPEG2000形式を本学でpdfに変換して公開)
フルテキストファイル
言語
jpn
文科省報告番号
甲第951号
学位記番号
甲薬第38号
学位授与年月日
1998-03-26
学位名
博士(薬学)
部局
薬学系